<私が私でいられる時> 番外編

 

 

「じゃあ、明日、またねー」

「あ、うん、おやすみー」

「おやすみー!」

アルバイトの皆が、三々五々、散っていく。

三が日を過ぎると、夜通しのシフトはなくなるから、

午後九時で全員があがり、女子更衣室は満員になる。

「……」

私は、今日ばかりはなるべく隅っこのほうで着替えるようにした。

なるべくきょろきょろしないようにしたけど、どうしてもあたりを窺ってしまう。

心臓が、どきどきしている。

感覚が鋭くなる。

それは、今のこの部屋の中では、まるでセクシャルなものの洪水を浴びているようだ。

女の子たちの甘酸っぱい体臭、衣擦れの音、そして目から飛び込んでくる半裸。

しかも彼女たちが脱ごうとしている「制服」は、伝統的な女性美を感じさせるもの。

それらが一度に私の五感に押し寄せてくる。

私の牝の感覚を刺激する。

(コノ女ノ子タチヨリ、私ハ魅力的ダロウカ。――アノ人ニトッテ)

ぞくり。

背筋を這う恐怖心。

今すぐ、それを確かめ、証明したくなる感覚。

でも、それは瞬時になくなる。

湧き上がる静かな自信がそれを消してくれるから。

あの人を試す必要なんて、ない。

築き上げた信頼──絆は、そんなことをしなくても「大丈夫」なことを、

私は全身で「わかって」いた。

ぞくり。

さっき感じたばかりの「ぞくり」とは違う、さらに強い「ぞくり」。

それは、まわりの女の子ではない、自分自身に感じているセクシャルな感覚。

私は、脱いだばかりの衣装――巫女服をぎゅっと抱きしめた。

 

暮れからお正月にかけて、私はこの神社でアルバイトをしていた。

私の通う女子高は、地域一番のお嬢様学校だけあって、

規則が厳しく、原則的にアルバイトは認められていない。

だけど、冬休みの短い期間、それも地域の行事に貢献するという名目がある

この神社での巫女バイトは数少ない例外だった。

時給もかなりいいことと、いくつかの特典もあるので倍率はけっこう高い。

私がそれに通ったのは、とてもラッキーだった。

 

「──あれ、綾タン、まだ着替え終わってないの?」

不意に声をかけられ、私はびくっとして振り向いた。

優希(ゆうき)が怪訝そうな表情でこっちを見ていた。

この神社の宮司さんの娘だという同い年の娘は、

知り合ってからほんの十日ほどの間柄だ。

だけど人懐っこい彼女は、初日から声をかけてくれて、

アルバイトで知り合った人の中では一番親しい。

「あ、うん」

わたしは、慌てて返事をした。

手に持った巫女服を机の上に置き、慌てて私服を手に取る。

もう着替え終わっている優希は、んー、と背伸びをしながら、

「綾タンは、夕飯、どうする?」

と聞いてきた。

アルバイトには、夕方の休憩のときにお餅とお茶が出る。

神社の名物でもある海苔餅は、ふたつも食べればとりあえずお腹一杯になり、

九時くらいまでは十分にもつ。

小食の娘はそれで夕飯を終わらせてしまうくらいだ。

しかし、活発で食いしん坊な優希は、バイトが終わった後で、家でご飯を食べず、

ファーストフードで何か食べることにしていて、それには私も何回か付き合った。

今日も優希は誘ってくれたのだけど──。

「ごめん、今日はちょっと用事があるんだ」

私は、なるべくさりげなく返事をした……つもりだった。

「んー。あ、デート?」

「!?」

いきなり当てられた。

「あー、図星?」

優希はくつくつと笑って手を振った。

「新治君、かっこいいもんねっ!」

これも──当てられた。

私は慌てて辺りを見回した。

更衣室に残っている人間は少なく、その中でも高校生は私と優希だけだった。

ちょっとだけ、ほっとする。

一昨日、新治君をファーストフードに誘った娘がいた。

男女混合のアルバイトは、彼氏彼女探しの王道ということはわかっていたけど、

現実にそういうことがあると、やっぱり複雑な気持ちになる。

もちろん、新治君はきっぱり断ってくれて、帰りは私といっしょだった。

「新治君が彼女持ち、つーのは、薄々わかってたけど、やっぱ綾タンが彼女だったんだー」

優希はおどけたしぐさで軽く手を振った。

「ご、ごめん。別に隠してるつもりはなかったけど……」

「いや、けっこーバレバレだったよ?

あたしとザクザクバーガー付き合ってくれるのは、

新治君が遅番のとき限定だったし……」

あっけらんと優希は言い、私は顔から火を噴いた。

「んじゃー、まー、私は帰るわー。彼氏とごゆっくりー」

神社の娘は、にやにやしながら出て行った。

後に残されたのは、私と、――近所の小母さんたち。

ゆっくりお茶を飲みながら、部屋の隅のTVを見始めている。

「……」

どきどきしながら机の上の巫女服に手を伸ばし、

規則どおりにロッカーに戻――さないで、自分のバックの中にしまった。

「お、お先に失礼します」

裏返った声で挨拶をすると、私は更衣室を駆け出た。

 

きゅっ、きゅっ。

昨日降ったばかりの新雪を踏み締める音。

寒さは、感じない。

むしろ、これから「すること」を思うだけで、顔が火照ってくるくらいだ。

目的の場所に着く。

そこに、私の愛しい人が待っていた。

「ごめんなさい、待った? 寒かったでしょ?」

「ううん。全然……。だ、大丈夫だった?」

神社の敷地の一番奥、小山のてっぺんにある小さなお宮、

というよりはお社の前に立っていた新治君は、私の顔を見て、ほっとしたように返事をした。

携帯のメールで連絡はしてあったけど、逢引の時は、顔を見るまで落ち着かない。

それは、恋人なら当たり前のことだ。

まして、これからちょっと背徳的な行為に耽るつもりの二人ならば。

「うん、持って来れたよ、――ほらっ!」

私は、巫女服をバッグから取り出した。

持ち帰り禁止の巫女服を持ってきたのは──新治君がこの服を着てエッチをしたいと言ったから。

「わあ、本物だ」

「うふふ、さっきまで見てたじゃない」

「そういや、そうだね。僕も持ってこれたよ」

新治君は頭をかきながら、こちらも装束を取り出した。

二人でアルバイトできるところ──神社を選んだのは、

一緒にいられる時間を少しでも増やすため。

でも、お金を貰うお仕事はやっぱり甘くなくて、

シフトをいっしょにすることさえ、結構難しかった。

でも、新治君と同じ場所で同じ仕事をすることは、とっても楽しくて、

アルバイトが終わった後の電話はとても弾んだ。

そんな会話の中で、エッチな男の子がふともらした一言。

それは、同じくらいエッチな女の子にとって、どきどきするような内容だった。

──アルバイトで使っている服を着て、エッチしたい。

神に仕える神職と巫女の装束でするセックスを想像して、新治君と私はぞくぞくした。

 

「うわあ……」

思わず見とれてしまう。

装束に着替え終わった新治君は、きりっとして、とてもかっこよかった。

この十日間、毎日見ているけど、やっぱりそう思う。

冷気に火照った頬が、さらにぽっと赤くなるのを私は自覚した。

「うわあ……」

その新治君が、巫女服に着替えた私を見て、どぎまぎしている。

それは、世界中のどんな賞賛よりも価値のあるものだった。

「エ、エッチ、し、しちゃおうか……」

「う、うん」

お互い顔を見合すのも恥ずかしい。

でも、見詰め合わずにはいられない。

それくらいに、私にとって新治君は魅力的な異性だった。

そして、新治君にとっての私も。

お互いを見詰め合う。

どんなものよりも強い力で、二人の心が決まる。

「……エッチ、しよっ!」

「……うん!」

さっきと同じことばを、さっきとはまるで違う覚悟で言い交わす。

神職の男の子と、巫女の女の子が、セックスをする。

それも、お堂の前、神様の前で。

禁忌だ。

しちゃいけないこと。

でも、そんな禁忌でも縛ることができないくらい、二人は昂ぶっていた。

(新治君とエッチする)

(綾ちゃんとエッチする)

それは、神様の前でも押さえたり、禁じたりすることができないくらい、強い強い欲求だった。

だから、新治君と私は唇を重ねた。

神社の本殿を見下ろす、奥のお堂の前で。

 

「ん……ふう……」

「んむ……んくっ……」

貪るような口付け。

甘くて、熱くて、蕩けるような。

「ふはあっ……」

限界までお互いの舌と唇を絡めあってから嫌々離れる。

──自分が呼吸をしなければならない生き物であるのがうらめしい。

新治君とキスをしている時は、いつも思う。

白い息の中で銀の糸を引いてつながる唾液は、ちょっぴり嬉しい見ものだけど。

「うふふ、新治君、お口でしてあげるね」

「い、いいの?」

「うん、……巫女さんのお口で、してあげる」

キスが終わると、猛烈なくらいの衝動が私を襲ってきた。

言葉に出すと、もう止められない。

私、こんなにエッチな娘だったかな。

神様の前で、男の子のおちんちんをしゃぶろうなんて考える──。

雪の上でひざまずいて新治君を上目遣いで見上げたとき、

そんな後ろめたさは、吹っ飛んだ。

袴姿の新治君は、ものすごく──かっこいい。

それが、私の手で、袴を脱がされて、おち×ちんをむき出しにされる。

そう思ったとき、ちょっとだけ感じていた背徳感が消し飛んでしまう。

私、たぶん、駄目な子なんだ。いけない娘なんだ。

でも、それでかまわない。

世界中のどんな神様よりも、私を救ってくれたのは、

目の前で、期待に満ちた目で私をみつめている、この男の子。

世界中の神様に見捨てられても恐くない。

いま、ここにいる男(ひと)を喜ばせることが出来るのなら。

──だから、私は、どんな敬虔な巫女よりもうやうやしく、

新治君の牡の器官に唇を這わせた。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

はぁっ、はあっ。

呼吸が、甘く、熱くなっていく。

ぴちゃ、ぴちゃ。

私の舌と唇とが、ものすごく敏感になっている。

ちゅくっ、ちゅるっ。

新治君のおち×ちんも。

「うあっ、あ、綾ちゃん……」

うめいて仰け反った愛しい男(ひと)に、私は目が眩むくらいに興奮と幸福感を覚えた。

舌の先で、おちんちんを愛撫する。

新治君の一番エッチな部分の輪郭を確かめるように。

「ひゃっ……!」

張り出した先端の縁(ふち)をなぞる。

おち×ちんの裏側の、溝が深くなっているところを舐めると、

新治君は身もだえして悦んだ。

「ふふ、これ、いいでしょ? 新治君、ここ弱いもんね」

最近知った、嬉しい発見。

エッチがうまくなるのに、何人もの人と経験をつむ必要なんて、全然ない。

大好きな人の反応を見ているだけで、

大好きな人が気持ちよくなるようにしていくだけで、

どんどん上手になって、幸せにエッチできるようになるんだ。

もう一つ。

「んっ……」

今度は膨れ上がったおち×ちんの先に唇を当てて、ちゅっ、と吸う。

「うわっ!!」

鈴口って、いうらしい。

新治君は、これがとても気持ちいいんだって。

私も、これ、好き。

 

こうやって吸うと、新治君の中に溜まっている先走りのおつゆがちょっとだけ出てくる。

口の中に広がる、新治君の味。

新治君のエッチなおつゆの匂い。

「あはっ!」

頭がくらくらするくらい、興奮する。興奮してる。

神社で。

お社の前で。

神様の目の前で。

私、絶対に、巫女さん失格だ。

それが──ぞくぞくするほど、嬉しい。

だって、巫女さんは神様のもの。

神様に仕える女の人。

だけど、私は──新治君のものであることのほうを優先する。

神様の女であるより、新治君の女であるほうが絶対優先。

だって、私は、石岡綾子。

石岡綾子は、新治君の女。

それは、絶対的なイコールで結ばれている。

「新治君の女」で、「石岡綾子」じゃない女の子は存在しない。

「石岡綾子」で、「新治君の女」じゃない女の子は存在しない。

だから、巫女さんをしている私は、神様の女じゃない。

新治君の、女。

だから、こうして、巫女さんの衣装を着ていても、神社の中にいても、

新治君を悦ばせるのが、一番の優先事項。

だって、私にとって、新治君は神様よりも、何よりも、

ずっとずっと、比べ物にならないくらい大事なんだもん。

ほら、私のお口の中で、その大事な新治君がとっても気持ちよくなってる。

 

「あ、あっ、綾ちゃん、僕、もうっ……」

「ん……んんっ!」

新治君の身体が、跳ねるように、びくびくってしている。

私は、音を立てて新治君のおち×ちんを吸いたてた。

「あっ! 綾ちゃっ……い、イくっ、イっちゃうっ!」

一回、仰け反った新治君が、今度は身体を折りたたむように上体を倒す。

うん。

私、知ってる。

立ったままの新治君にしてあげるとき、

すっごく気持ちいいと、新治君は、いつもこうなっちゃう。

そういうときは、もう新治君が射精するときだから──。

私はひざまずいたまま、前ににじり寄った。

お尻の後ろに手を回して、ぎゅっと抱き寄せる。

新治君、腰、引いちゃダメ。

射精するときは、もっと私にくっついて。

唇をきゅっとすぼめる。

口の奥まで飲み込んだおち×ちんが抜け出せないように。

新治君は、私から離れられなくなった。

「うあ、あっ……」

新治君は、もう一度仰け反るしかない。

腰を突き出すようにして、新治君の身体が、私に近づく。

私はさらに新治君に密着した。

身体全体が痙攣するように震え、新治君が射精し始める。

私の口の中に。

びゅくん、びゅくん。

いつもより、射精する量が多いのを、私は舌の上で感じ取った。

 

新治君、気持ちいいんだ。

私にお口で愛されてるのが。

そのことに頭の真ん中まで白くなるような興奮を覚えた私は、

びくびく脈打ちながらお口の中で跳ね回る新治君の先っぽを、

精液と唾液にまみれた舌全体で舐め回した。

「ひゃいっ!」

女の子のような可愛い悲鳴をあげた新治君が射精を続け、

私は、その最後の一滴まで飲み干した。

「はぁっ、はぁっ……」

「はぁっ、はぁっ……」

白い息が、雪に照らされて僅かに明るい夜気に溶けて行く。

でも、全然寒くない。

それどころか、身体が、すごく熱い。

頭の中まで。

私は、唇の端にこぼれた新治君の精子を舐めとった。

「あはっ、美味し……」

青臭い粘液を飲み込むことが苦手にならなくなって、ずいぶん経つ。

それが本当に美味しく感じるようになったのは、

どこかの神経が、そう「教育」されたからだろう。

新治君が強制したんじゃない。

私が、そう、自分を作り変えているのだ。

新治君をもっと悦ばせられる女の子になりたい。

だから、舌が──身体が慣れた。

新治君に。

不意に私は、自分が、昨日よりももっと

新治君と相性のいい女の子になっていることを自覚した。

嬉しい。

幸せ。

気持ちいい。

その感覚は、ぞくぞくするほどに私を昂ぶらせ、さらに「それ」を求めさせた。

もっと、もっと。

新治君を気持ちよくさせられる女の子になりたい。

新治君を悦ばせられる女の子になりたい。

新治君と相性のいい女の子になりたい。

もっと、もっと。

だから、私は、さらに新治君が求めてきた行為を受け入れるべく、

心と身体をさらに開いた。

 

「あ、綾ちゃん、本当にいいの……?」

「うん、大丈夫。ちゃんと準備してきたから」

この間、ベッドの中でおしゃべりしていた時に、ピンときた。

新治君は、「これ」に興味がある。

そして、私も。

普通のエッチに比べて、いろいろ用意しておかなきゃならないことが多いけど、

今までしたことのない経験を新治君といっしょに積み重ねられるのは、

私にとってどんなことよりも幸せなことだ。

ましてや、「自分だけの女の子」に愛されることが何より嬉しい男の子に、

「はじめて」を捧げられる行為なら、なおさら。

神社でエッチしたい、と聞かされたとき、

まっさきに思いついたのが、それだった。

逢引の時間を、アルバイトが終わってからすぐではなく、

夜中にしたのも、神社の中の人気が絶えるのを待つためだけじゃない。

このための準備をする時間がほしかったから。

お浣腸を遣って、お腹の中をすっかり綺麗にして、

念入りにお風呂に入って、ローションを用意して……。

準備は、完璧に出来た。

 

「――新治君、私のお尻の「はじめて」、奪って……」

ぎゅっと抱きしめあいながら、私は新治君の耳元でささやいた。

巫女さんは、神様にお仕えする女の人。

だから処女じゃなきゃいけない。

だけど、私の処女は、神様なんかじゃなくて、新治君のもの。

お尻の処女だって、そう。

世界中の神様の前でも、私は堂々とそう主張する。主張できる。

だから、神社でのエッチすることになったとき、

私は、この時に、新治君とお尻でしようと決めていた。

巫女さんの処女は、神様より大事な人のためにあるんだ。

 

「ぬ、脱がすよ……」

「うん」

境内の木に手を回して、腰を後ろにつき出す。

ほんとは、巫女さんは、こんないやらしいポーズをしちゃいけない。

お尻を無防備に、男の人に差し出しちゃいけない。

でも、新治君にあげるのなら、いいの。

こうして、後ろから、袴を下ろされても。

ショーツも下ろされても。

お尻をむき出しにされても。

両手で、お尻の肉を左右に割られても。

その間にある、女の子が見られて一番恥ずかしい部分、

おま×こよりも隠しておかなきゃならない部分をじっくりと見られても。

そして──。

「あ、綾ちゃん……」

「……んっ!!」

新治君が、私のお尻の谷間に顔をうずめた。

ちゅっ。

温かく、湿ったものが触れる感覚。

背中に電流が走り、私は木を抱く手に力をこめた。

「だ、だめぇ……」

思わず声が出る。

何度も何度も念入りに洗った。

いまのそこが、ボディーソープの匂いしかしないのもわかっている。

でも、恥ずかしい。

お尻の穴に、キスされている。

新治君に。

「……ひっ」

新治君の舌が、私のお尻の穴――アナルを舐め上げた。

私は、さっき射精したときの新治君よりも激しく仰け反って悶えた。

 

「くっ……うぅ……ん。だ、だめ、新治君。

そんなところ、ぺろぺろしちゃあ……」

「んっ……こ、これが綾ちゃんの……」

「ひいいっ……」

新治君の舌は、執拗だった。

クンニリングスも上手で、私は一回のエッチで何度も何度もイかされるけど、

アナルへのはじめての刺激は、まったく別物だった。

「だめぇ。新治君、そこは汚いよぉ……」

排泄器官を愛撫されることには、その禁忌がつきまとう。

でも、新治君は、

「ん。そんなことないよ。綾ちゃんのお尻だもん……」

と意も介せずにその部分を舐め回し続けた。

くりっ……。

舌先が、すぼまりの真ん中を突っつく。

「ひあっ!」

身体の反応が止まらない。

腰ががくがくと震える。

そのくせ、私の女の身体は、蕩けていく。

「次」の行為を欲しがって。

新治君の唇と舌に媚びるように、粘膜が柔らかくほぐれて行く。

私のお尻の肉をつかむ新治君の両手に力が入った。

「……!!」

新治君が尖らせた舌先を、優しく奥まで突き刺したとき、

私は、槍で貫かれた魔女のように身もだえして達した。

淫らな巫女は、神様より偉い人に罰を受けて串刺しにされた。

でも、――なんて甘美な罰なんだろう。

そして、これほどの快感さえも、まだ終わりではないのだ。

神様より、この男(ひと)を選んだ女に下される罰――ううん、ご褒美は。

私は、崩れそうな膝を必死で支えて、もう一度お尻を高く掲げた。

先ほどより、硬く大きくなったおち×ちんをしごきながら、

私の後ろに立った新治君を、私はかすんだ目でみつめて迎え入れた。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「綾ちゃん……」

私の後ろに、影が立つ。

月明かりを背にしているから、顔が見えない。

残念だけど、そのシルエットだけでもいとおしい。

夜の空気に溶け込むようでいても、

私には、そのかっこいい輪郭が、はっきり分かる。

耳に聞こえる息遣いと、僅かな牡の匂いも。

目も、耳も、鼻も、私の身体はその虜だった。

「新治君……」

やっとそれだけを言うことができた。

息を吸って吐くことさえ、忘れそうなくらいの興奮。

きゅっ。

プラスチックが立てる小さな音。

新治君が、ローションの蓋を開けたんだ。

この間二人で行った、ちょっと離れた街のアダルトショップ。

恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら買った透明なローション。

二人のエッチを、さらに楽しく気持ちいいものにする小道具。

新治君は、それをちょっと手のひらに受け、おち×ちんに塗り始めた。

右手で、ゆるやかにしごくようにして、塗りたくる。

「ん……」

わずかな喘ぎ声。

かわいい、新治君の喘ぎ声。

それを聞いた瞬間に、私の中のスイッチが入る。

さっきより、もう一段階強く。

「……ダメよ。新治君、自分でしちゃ……」

「え……?」

「私がいるのに、自分でおち×ちんしごいちゃ……ダメでしょ?」

 

そう。

新治君は、自分でおち×ちんを弄る必要なんか、ない。

そんなことは、私に任せてくれればいいの。

新治君は、一生オナニーしなくたっていいんだよ。

貴方専用の女が、いつでもいっしょにいるんだから。

「あ……う、うん……」

「こっちに来て……。私にさわらせて……」

「う、うん」

愛しい男(ひと)が、一歩、こっちに近づく。

後ろに伸ばした指先が、新治君の一番敏感な先っぽに触れる。

闇をまさぐる私の手が、愛しい牡の存在を確かめる。

太い茎の表面をすべるようにして、新治君のそれを握る。

「うわっ……」

「ああっ……」

快楽の吐息は、握られた男の子よりも、握った女の子のほうが熱く、甘い。

冬の夜気の中、堅く猛ったそれは、それだけで牝の自尊心を満たす。

(この男(ひと)が、私に欲情してくれている)

言葉よりも雄弁な、証。

手のひらの中ではち切れんばかりの器官が愛しかった。

だから、私は、後ろ手のまま、ゆっくりと丁寧にそれを愛撫した。

「ううっ……」

新治君が小さくうめく。

「うふふ、新治君、気持ちいい?」

「う、うん、すごく……」

「さっき、出したばかりなのに。あんなにいっぱい私に飲ませたばかりなのに……。

新治君のおち×ちん、こんなにかちかち。さっきよりずっとすごいよぉ……」

「そ、それは……し、したいから……」

「うふふ、何を……?」

私は、期待に満ちた目で、新治君がその台詞を言うのを待った。

新治君は、深呼吸をして、それから言った。

「――あ、綾ちゃんの、お尻で……したい、です」

ぞくぞくぞくっ。

立っていられなくなりそうなくらいに、背筋に甘い電流が走った。

新治君が、したがっている。

私のお尻で。

「いいよぉ……。新治君、私のお尻で、シて……」

かすれた声で返事をする。

「あ、綾ちゃん……」

後ろから新治君の荒い息が近づく。

ぴちゃ。

「ひゃんっ!!」

予想外の感触。

新治君が、ローションのついた手で触ったのだ。

「綾ちゃんも、ここに塗っておかなきゃ、ね」

「ひ、あ、あ……」

抵抗する間もなく──もっても、抵抗する気なんて最初からないけど──、

新治君の指先が、私のお尻のすぼまりをなぞった。

私の「後ろの真ん中」を、ぬるぬるとした粘液が這う。

冷たいけど、熱い感触。

淫らな液体をたっぷりと塗りつけた指先は、

私のお尻の穴の上でぴたりと止まった。

ゆっくりと、つつくように、押すようにして「そこ」を確かめる。

女性器よりも恥ずかしい、穴を。

「し、新治く……」

「こ、ここ、ほぐさなきゃね……」

その時、私は、恥ずかしさに真っ赤になり、未知の体験への不安に頬を強張らせ、

──そして、口元ははっきりと笑っていた。

情欲に昂ぶった新治君は、とても積極的。

世界中のどんな男の子よりも、エッチだ。

そして、新治君がこうして積極的になれる牝(あいて)は、私一人だけ。

 

「ひあっ……」

私の男(こいびと)の指が、淫らに動く。

私の体の、一番排他的で保守的な孔が、蹂躙されていく。

新治君の指は、粘膜の襞(ひだ)を丁寧に愛撫し、

その皺のひとつひとつまで、ローションを塗りつける。

時々、軽く押し込むようにつつかれると、

私は、自分でもわかるくらいに淫らな声をあげて悦んだ。

つぷ。

新治君が、何度目かの試みの末、ついに私の内に指先を入れた。

それは人差し指だろうか、中指だろうか、

私の肌が識(し)っている感触を信じるなら、多分右手の中指だ──の先を、

第一関節の半分くらいをお尻の中に差し込んだ。

「ふあっ!!」

侵略者は、抗うように身を反らせた私に斟酌しない強さを持っていた。

なぜなら、蹂躙される側が、蹂躙されることを望んでいると知っているから。

「ひっ……」

私は、声をあげながら、必死で逃げようとする自分の身体を自分で押さえつけた。

立ち木に抱きついたままの片手に力をこめ、逆にお尻を後ろに突き出す。

蹂躙者に、自分を貪っている背後の存在にそれを捧げ尽くすため──。

「入り口」を貪り尽くした新治君の指が、

「もっと奥」を同じように揉みほぐし、とろかせるたびに、

私はすすりなくような声をあげて歓喜に悶えた。

新治君は、私の内側を揉みほぐし、淫らな粘液を塗りたくる。

そして、指が届く範囲すべてが、新治君の指とローションに犯され尽くされたとき、

私は、すべての準備を整え終えていた。

「はぁっ……はぁっ……」

「だ、大丈夫、綾ちゃん……」

力が抜け、ぐったり、と立ち木に体重を預けた私を見て、新治君は慌てて声をかけた。

私は、うっすらと目をあけ、霞んでいる向こうに立つ愛しい人に微笑んだ。

右手でつかんだままのその人の性器をまた愛撫しながら、優しく、そして淫らに。

 

「……だめ……」

「え……」

「もう、だめ……。新治君、早く……来て……」

言いながら、右手の中の熱いものをしごく。

おち×ちんが信じられないくらいに硬く猛り立ったのを確認すると、

私は、それに自分のお尻を押し付けた。

「ああ、綾ちゃん……」

「来て、新治君。……私のここも、貴方のものにして……」

お尻の割れ目に塗られたローションで何度か滑る。

それさえも、全身が性器になったような私には甘い拷問だった。

新治君の固い先っぽが、すっかり従順になった孔にあてがわれる。

「い、いくよ……!!」

「うん、来てっ! 来てっ!!」

じゅぶっ!

愛撫とローションでとろとろになったそこは、そんな湿った音を立てた──ように思えた。

私の耳は、それを聞いてはいない。

それどころではなかったから。

私の身体に、最後に残された処女地を奪われる衝撃──と快感。

痛みはなかった。

あるのは、はじめての感覚に戸惑う身体と、

それがものすごい幸福感であることを識(し)っている魂の間の「ずれ」。

だけど、身体は常に魂の奴隷にすぎない。

新治君がゆっくりと身体を動かし始めると、

身体は、「それ」が信じられないくらいの快感と幸せということを理解しはじめた。

「ひっ、ああああっ……!」

私は、甘い悲鳴が細く漏れるのを遠くに聞いた。

犯されている。

お尻の穴を。

新治君に。

自分の最後の器官まで捧げている自分に、私は声をあげて歓喜した。

 

「あ、綾ちゃん、だ、大丈夫っ!?」

「うん、だ、大丈夫、続けて、続けてぇ……」

「う、うん!」

「犯して、犯して! 私のお尻の穴、全部犯してっ!!」

今日から、そこも貴方のもの。

それが、嬉しくてたまらない。

私は、粘膜のしびれる感覚すら痛みではなく快感だということを、

必死で背後の私の牡(おとこ)に伝えようと、自分から腰を振った。

 

身体の真ん中で、抜き差しされる鉄のように硬い棒。

内臓を串刺しにされる感覚。

引き戻されるときに、粘膜だけでなく身体全体がめくれ上がるような感じ。

自分の全てを……特に一番汚い奥底までをさらけ出しているような意識。

それらは、――全部、快感だった。

新治君が相手なら。

 

だから、私は、興奮しきった新治君が後ろから覆いかぶさるようにして重なり、

両手を乱れた巫女服の胸元に差し込んで揉み始めたときに、

もっとお尻を突き出し、もっと激しくお尻を振って、

私の中にある新治君の動きに合わせ、その絶頂を引き出した。

「ううっ、あ、綾ちゃん、もう……」

「そのまま出して! 私のお腹の中に出してっ!!」

すべてを捧げる快感──その最後は、それ以外に考えられなかった。

「あ、綾ちゃんっ!!」

「新治君っ!!」

びゅくん、びゅくんっ。

私の奥に突き入れられた男根から、勢いよく粘液が噴出される。

しびれきって感覚すらないはずの私の粘膜は、それを確かに感じ取った。

吐き出された精液が、私のはらわたを白く染めあげていく感覚。

内臓の奥底まで恋人に与えたことに、私は信じられないくらいの絶頂感を味わった。

 

「はぁっ……、はあっ……」

「はぁっ……、はあっ……」

二人の荒い息が、白い。

お互いが、お互いの息の届く距離の中にいることを目で確認できるのが嬉しい。

「うふふ……」

「あはは……」

思わず、笑みが漏れる。

汗と、牡牝の淫らな液体で体中を濡らしたまま。

このままずっと見詰め合っていたいけど、もう時間だ。

雪の中で、いつまでも立っていられない。

今日はもう帰らなきゃいけない──明日また愛し合うため。

それがわかっているから、二人のため息は切なくても満ち足りている。

だから──もう一つ、今を愉しみたい。

新治君と二人で。

私は、名残惜しげな瞳の恋人にもう一度微笑みかけた。

「ね、新治君──私のバッグ、開けて」

「う、うん……」

新治君がバッグを開けている間、私は立ち木から離れ、

お社の前まで歩いていった。

膝下にからんだ脱ぎかけの緋袴が歩きにくいけど、巫女服を着直しはしない。

これから、二人のいつもの儀式をするから。

「綾ちゃん、これ……」

「うふふ、記念写真、撮って……」

バッグの中から取り出したデジカメを手にして振り向いた新治君に、

私は飛びっきりの笑顔を向けた。

お社の前で、さっきのように腰を突き出し、

さらに両手でお尻の肉を左右に割って、お尻の孔を押し開いて。

「ほら、私のお尻から、新治君の精液がこぼれてきちゃった。

もう、ここ、新治君のものだよ。私のお尻、新治君のもの。

だから、その記念に、新治君の精液まみれの私のお尻、写真に撮って……!!」

神様の前で、身体の全部が神様のものでないことを宣言した巫女は、

それを神様に見せつけ、証明することさえ、求めた。

私の全てを所有している男の子は、喜んでそれを実行した。

何枚も、撮られる写真。

フラッシュの光の中で、私は犯されたアナルを

何度もデジカメと新治君の頭の中に記録され、

手も触れていないのに、何度もイきかけた。

そして、お尻にくっつきそうなくらいに近くで

新治君に最後の一枚を撮られたときに、私は、身を反らせて達した。

 

その瞬間──何度もフラッシュを焚かれて緩み始めていたお社の屋根の雪は、

神様の怒りのように、私たちの頭上に落っこちてきた。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「……で、二人して、私に予備の衣装を借りに来たわけだ」

森山B・B(バーガー・バーガー)で、三つ目の「ぬ〜べ〜バーガー」を食べながら、

優希(ゆうき)がジト目で私を睨んだ。

「……そ、ソウイウコトデス……」

私は、視線をあっちに向けたりこっちに向けたりしながら答えた。

「あー、もー、バカ。二人してバカ。バカな上に罰当たり」

憤然として卵焼き入りのハンバーガーにかぶりついた優希の言葉は、

神社の娘としては当然のものだろう。

小さなお社の屋根から落っこちてきた溶けかけの雪は、

二人が怪我をしたり埋もれるほど大量ではなかったけど、

二人の服をびしょびしょに濡らすには十分すぎるものだった。

そして、内容を詳しく語らなくても、勘の鋭い神社の娘には、

「装束と巫女服で夜中に山の上で会っていた男女」が何をしていたのかはお見通しだった。

アルバイト前に相談しに行った私たちを、今の三倍くらい強力なジト目で眺めた優希は、

新しい装束と巫女服を貸してくれる代わりに、新治君には二時間のサービス残業。

私には、二時間のバイト代相当分、ハンバーガーを奢ることを命じたのだった。

 

「しっかし、まあ、よくやるわ、綾タンも……」

四つ目のぬ〜べ〜バーガーをぱくつきながら、

(まさか、<アルバイト料二時間分>を一回で食べるとは思わなかった)

優希は何度目かのため息をついた。

「うう、すみません……」

しおしおとなって私は小声で言った。

「あー、一応、私、口が堅いつもりだから、その辺は安心して。

でも、まあ、綾タンたちがそういう仲だろうというのはバレバレだけどね」

私としては、別にやましいものは何もないから、

新治君と恋人同士というのを皆に知られても何も困らない。

二人でセックスを──アナルセックスをしていた事は

何の証拠もないし、二人がエッチをしていた、と噂になるくらいは覚悟出来ている。

それでも、恥ずかしいことには変わりがなかったし、

優希の気遣いも(口止め料込みの奢りもあったとしても)嬉しかった。

「……まあ、あれだ。これからはあまり罰当たりなことはしないように、ね」

「すみませんです……」

優希は五つ目のぬ〜べ〜バーガーを飲み込んで私を見た。

「で、お社様にはちゃんと謝ってきた?」

「うん、さっき、休憩時間に、ふたりで……」

「よろしい。ま、うちの神様はそういうこと、寛容だから、大丈夫でしょ」

「大丈夫って……?」

「祟りとか、そのへん」

「ええー?!」

「うちの神様、けっこうご利益あるのよ。怒ると怖い、ともいう。

屋根の雪が落っこちてきたのも、偶然じゃないわよ?」

「そ、そ、そうなの?!」

焦った私が、ちょっと裏返った声で訪ねると、神社の娘はにやりと笑った。

「――大丈夫、うちの女神さまは<縁結び>と<安産>の神様だから」

「え……」

「ほら、あげる」

優希は胸ポケットから赤いお守りを取り出してテーブルの上に置いた。

「あ……」

「<縁結び>は、もういらなそうだから、こっちをあげる。

今は避妊とかしっかりしとかなきゃダメだけど、

<作ってもいい>時になったら、二人してお参りに来なさい

一発でおめでたさせてくれるから」

優希は、くすくす笑いながら<安産祈願>の四文字が入ったお守りを私に握らせた。

真っ赤になった頬っぺたが、もっと赤くなるのを私は自覚した。

唾を飲み込む音も。

(赤ちゃんを作る──新治君と?)

どきん。

どきん、どきん。

その想像に、私はくらくらとした。

(あー、あー、綾タン、しっかりしてー)

(おーい、こっちに戻ってこーい!!)

袖を引っ張る優希に、ぼうっとしながら微笑み返し、私はようやく席を立った。

どうしよう。

どきどきが止まらない。

未来を、意識してしまったから。

 

お会計を済ませて、優希と別れてバスに乗ってからも「それ」は止まらなかった。

(帰ったら、新治君に電話しよう)

二時間余分に働いて疲れているだろう恋人を慰めるのは、私の、私だけのつとめだ。

そして、楽しくなるような未来の話をちょっとだけして、

二人は、電話越しの自慰行為に溺れるだろう。

昨日、奇跡的に故障せずに済んでいたデジカメの、淫らな写真を眺めながら。

女神さまに二人でお参りに行くの日がいつになるだろうか、

私は、わくわくしながらバスに揺られていった。

 

fin

 

 

 

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